JP7FKFの備忘録

ヒトは,忘れる生き物だから.

ICOM IC-T90のバッテリ換装をしてみた話

おことわり

  • 本記事で紹介する内容はわたし自身が自身の責任のもと実施した例を紹介するにすぎません.
  • 本記事を参考して生じた事故,火災やその他の損害等が生じた場合でも,いかなる理由に関わらず一切の責任を負いかねます.
  • 一般的な二次電池,得に高エネルギー密度であるリチウムイオンバッテリーは取り扱いを誤るとたやすく爆発・火災等を生じる危険性があります.このことに十分配慮する必要があります.
  • この内容は製造元であるアイコム株式会社とは一切関係がなく,また推奨されることではありません.保証等が一切受けられなくなることをご理解ください.
  • もしも参考にされる場合でも,上記のことを十分ご理解頂いた上で事故なく実施いただけることを願います.

コトの発端

しばらく前に手に入れていたIC-T90だが,付属のバッテリーが使い物にならなくなった.具体的にはチャージャーで充電しても5W送信した瞬間に電源が落ちる.また充電中にバッテリーが異常と思われるほどひどく発熱していたことがあった.このままでは爆発・火災になる恐れがあると判断してしばらく利用をやめていたが,どうにか使い続けられるようにできないかと色々思考錯誤してみていました.具体的には11Vの外部電源端子からの給電のみとして利用し,バッテリは外して運用することや,バッテリの交換を実施することでした.新規に純正バッテリを購入することも検討しましたが,バッテリの値段は安くなく,それなら11Vの外部電源から運用したほうがコスパはよさそうだ,などと考えていました.

しかしどうにも11Vの外部電源だとモビリティがよくありません.せっかくのハンディ機なのにいちいち外部電源のことを考えて用意しておく必要が出てきます.これでは使いにくいと考え,思いついたのがバッテリパックを分解・改造したバッテリの換装でした.ただ,リチウムイオンバッテリパックの改造は多くのリスクを伴うものであり幾度か考え直しましたが,保護回路付きのセルに入れ替えることである程度の安全性を担保しつつ,換装が行えないかと考えました.

早速換装

ICOMのバッテリパックです.BP-217という型番がついていて,7.4Vの1500mAhのものとなっています. f:id:jp7fkf:20200906232721j:plain

当初これを記事にする予定はなかったこともあり,分解時の写真が残っておらずに申し訳ないのですが,バッテリパックは側面の隙間にマイナスドライバ等を差し込んでこじ開けることができました.中にバッテリがいるということに注意をして,金属ではなくプラスチックのドライバを利用するなどするほうが安全でしょう.中には18500のリチウムイオンバッテリの生セルが2本,ニッケルのタブでスポット溶接されて内蔵されていました.セル外装はピンク色. タブ,電池の端子等をショートさせないよう十分注意を払いタブはニッパで切断してセルを取り出しました.セルさえ取り出し,絶縁してしまえば危険はひとまずありません.

分解時の写真が無いため,いきなり換装後の写真を紹介します. f:id:jp7fkf:20200906233422j:plain

このように,既存のバッテリパックの外装のみを再利用し,その中に新たに保護回路付きのセルを内蔵するような設計にしました.詳細を追って紹介します.

換装するバッテリとして選択したのはKEEPPOWERに18350, 1200mAhの保護回路付きのセルです. 値段も2セルで2000円未満と十分手頃です. www.amazon.co.jp

これを選ぶまでの過程はいくつかあります.要素としては下記を考えました.
1. もとのバッテリーパックの外装に内蔵できる大きさであること(絶対)
2. 内蔵した際に得られる公称電圧が7.4Vとなること(つまりバッテリパックの中で2Sのセルとして構成できること)
3. 保護回路がついていること(絶対)
4. できる限り容量が大きいものであること
5. さらなる交換・換装が可能であること

3の保護回路がついていることは絶対条件として考えていました.火災や爆発は避けたいからです.
1, 2の内容について,次のような結論を得ました.
もとのバッテリパックに入っているセルは生セルの18500セルとなっています.BP-217そのセルに最適化されたバッテリパックのサイズになっており,横幅には薄いニッケルのタブだけが収められる程度のサイズ余裕しかありません.しかし保護回路が搭載されたセルは一般の生セルよりも数mm長くなってしまいます.このことから同じサイズである18500の保護回路付きのセルはバッテリパックの外装に収めることはサイズ的余裕がないためできません.18500よりも小さいサイズとしては18490, 18350等があります.一般に電池の容量が増加すると電池自体のサイズも増加することから,4の条件を考えると18490サイズで保護回路付きのものがあり,全長がバッテリパックの外装に収められればこれを選びたいと考えるところでしたが,どうやら調べてみると18490のバッテリというのはあまり流通していないようで入手性がよくないようです.このことから今回は18350のサイズのセルを選ぶことにしました.また,このサイズにすることで5の条件である交換・換装用意になるようなしくみをバッテリパック内部に取り入れることが可能になりそうだという考えが浮かびます.

この時点で,上記のKEEPPOWERの18350保護回路付きセルはこれらの条件をすべて満たしており,さらに評判も悪くないメーカーであること,数多く利用され,実績のあるセイコーインスツルメンツの保護回路ICを利用していると謳われていることから上記を選択しています.

今回はこの5の条件である換装容易性を,通常の乾電池ボックス等で利用されているようなバネ性のあるコンタクトが利用できそうだと考えました.これは秋月電子で販売されているものを利用しました.ターミナルクリップと呼ばれているんですね. akizukidenshi.com

これら18350セル2本,上記のターミナルクリップ,その他配線類をもとのバッテリーパックの外装に収められれば求めるものができます.ここで懸念するべき点がいくつかあります.
1. リチウムイオンバッテリの特性がもともと入っているものと異なる可能性があること
2. 容量が異なること

少なくともこの点については気をつけなければなりません.いくら保護回路が入っているといえど,リチウムイオンバッテリで比較的特にリスクが有る作業が充電です. 充電はこの1, 2のことをよく考慮して実施する必要があります.リチウムイオンバッテリは一般に最大充電電流は1Cとされています.このセルは1200mAh, もとのセルは1500mAhです.この時点でIC-T90の急速充電装置およびIC-T90本体からの補助充電時の充電電流が高すぎる恐れがあるということは容易に想像できます.このことを気にかけておく必要があります.
また放電についても,もとのバッテリの放電特性が不明であることから,気にかける必要があります.しかしリチウムイオンバッテリの放電特性として低内部抵抗で比較的大電流を扱うことができることからそこまで大きな問題になることは少ないでしょう.KEEPPOWERのこのバッテリはの出力電流は最大4.1C出力の仕様であり,最大放電電流は約5A程度になります.あらかじめIC-T90のバッテリ運用時の必要電流を測定しましたが,5Aは大きく下回っていることを確認していましたので,この点についてはクリアです.

このことを忘れないようにしておき,作成後に検証することにします.

さて,長くなりましたが作成物の紹介をしていきます.購入したバッテリはこれ.ちゃんとケースもついてきて2セルで1500円くらいです.
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バッテリとコンタクトするターミナルクリップをうまく固定するため,3Dプリンタで保持具を作ります.モデルはこんな感じ.
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この保持具にコンタクトを接着剤で固定し,配線類のはんだ付けを行っています.配線類はバッテリから2-3A程度の電流をとっても発熱が少なくなるよう余裕を持った太さのものを使うと良いでしょう. f:id:jp7fkf:20200907003912j:plain
見ていただくとわかると思いますが,バッテリパックには制御基板が入っています.これはもともと生セルと一緒に入っていた制御基板をそのまま利用しています.制御基板からはそれぞれ充電用端子,バッテリの各セルのプラスマイナスに対して配線が伸びているので,もとの生セルと同様の配線になるように配線してあげます.要するに生セルだろうが換装後の保護回路付きセルだろうが配線は変えずに生セルだと思って配線してあげればよいです.これで制御基板側でも充電・放電電流の監視も行ってくれることでしょう.セル側にも最後の頼みの綱として保護回路があり,2重で保護されている形になります.
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両側面にはエポキシ接着剤をいれて固定してしまっています.
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斜めからみるとこう.バッテリを入れる前に抵抗計でバッテリのセルを入れても問題ないか(セル両端で抵抗値測定をした場合に異常に低い値を示さないか)を確認しておくと良いでしょう. f:id:jp7fkf:20200907003734j:plain

これでバッテリパック自体は構成できました.この時点で電圧を確認します.低くても5V程度から高くても8.4V程度である必要があるでしょう.リチウムイオンバッテリの終止電圧は低くてもセルあたり2.5V程度,満充電電圧はセルあたり4.2V程度ですから,これに由来します.この範囲を大きく外れていた場合はセルや回路に異常があると判断して調査を行ったほうが良いかもしれません.

さて,電圧の正常性が確認できたら充電電流を測定してみます.今回は急速充電クレードルBC-139を利用して測定を行いました.電流計,電圧計をかましてセル状態を監視しながら充電をしてみます.最大充電電流は1Cですから,1.2Aを超えていた場合は即座に充電を中止する心構えをしておきます.
測定中の画像が下記です.クレードルの端子にはワニ口クリップをはさみ充電・測定系につなぎます.クレードルの下にはスイッチがついており,このスイッチが押されていると充電を開始しますから,これを押して計測します.はじめは手で押して様子を見て,問題なさそうならマスキングテープで押しっぱなしにして充電完了まで監視します.
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測定の結果,終止電圧付近から充電を始めた場合でも,充電電流は最大0.8A程度で,1Aをこえることはありませんでした.このことから約0.66C程度で充電をしている事になりますが,これは1Cを大きく下回っていること,一般に充電電流は0.5C-1Cの間で行うことが多いことから,0.66C充電は問題ないものと判断しました.実際危険はあまりないでしょう.

充電は無事完了し,充電クレードル側でも充電完了を示す緑色のランプが点灯し充電電流が0Aになり充電が終了しました. 充電が無事成功したといえるでしょう.

換装後充電したバッテリパックで送信・受信ともにテストを行いましたが5W送信も問題なく行え,電池本体や周辺回路からの発熱もほぼありませんでした.それより5W送信すると本体の発熱が大きいです.
ちなみに充電中であっても電池本体・回路からの発熱はほぼありません.それより充電クレードル本体の発熱がひどいです.

というわけで無事バッテリの換装ができ,ハンディ機として継続して利用することができるようになりました.1500mhAから1200mhAに容量が減っていることから,多少運用時間は短くなることは想定されますが,その場合はセル自体が交換できるようになっていますので,同様の18350保護回路付きセルをケースに入れて持ち運び,交換してあげるような運用もできます.これで使いやすくなりました.めでたし.

まとめ

  • IC-T90のバッテリパックBP-217の内蔵バッテリを保護回路付きバッテリに換装し,さらにセル自体も交換可能となりました.
  • 急速充電クレードルを利用した充電テストでも問題なく充電でき,クレードルも流用することができることがわかりました.
  • 送受信も問題なく,換装後のバッテリでストレスなく運用できました.